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ヘルス・コミュニケーション日記
もとヒヨっ子研究者の会社員2年生が、ヘルスケア領域の話題や子育て日記、趣味等思いつきで綴ります。
【書評】「シリアスゲーム」(藤本徹 著)&「ハイコンセプト」(ダニエル・ピンク著):次代が求めるものを見つめる二人
この2冊には共通するものがある。読了してそう思った。
2冊を同時に論じるのは乱暴だが、互恵関係にあると
思うのでお許しいただいて・・・

前者の著者は、
個人的にもよく知っているシリアスゲームジャパン代表で
ペンシルバニア州立大学博士課程の藤本徹氏。彼にしか
書けない期待の本である。ゲームに興味がある人だけでなく
むしろ教育や人を育てるということ、社内研修や人材開発に
興味がある人、そしてそれらを通じた「変革」を志向する人
にこそ需要がある本かもしれない。オススメ。

後者の著者は、
もとゴア副大統領のスピーチライターで法学博士号を持つ
人気作家。今は日本のマンガの研究をしているという。
MBAの課題図書で読んで前者と通じる部分があることに驚いた。
この2冊を同時期に読むことの意味を自分なりに整理したい。
まずはそれぞれの簡単な紹介から。

前者は日本人で最も米国シリアスゲームの動向に詳しく、
また教育工学の中の教授システム学(Instructional Design)
という領域で研究を続ける藤本氏ならではの新著である。
シリアスゲームおよびゲームを考えることで相対的に
浮き彫りになる「教育とは何か」、ということへの問いに
応えた好著だと思う。

後者は米国で売れたビジネス啓蒙書とでも言うべきジャンルの
本であるが、管理人にとってはそれにとどまらないインパクト
があった。前者「シリアスゲーム」の意義を傍証しているから
である。ここではその部分に特化して紹介しよう。
この本自体の詳しい内容については書評を書いている
諸兄に譲る(こことかこことかここなど参照ください。)

で、前者はなぜ今ゲームなのか、という問い、そして
「今後はどうなるのか」、という読者の疑問に応えるという
ゴールを目指すためにまず「ゲームと教育・学習」について
概念や定義の整理から始めている。

ゲームを教育や研修に使いたいと思っている人は多いし、
これまでも単発的散発的に多くの試みが成されてきたが、
それと今回の「シリアスゲーム」は何が異なるのか?
ということが豊富な具体例を元に非常にリアルに把握できる
構成になっている。ヘルスコミュニケーション領域のトピック
も豊富である。

ゲームに否定的・懐疑的な読者にも納得のいく配慮が
成されており、関連分野の研究者の資料にも耐える。

さほど厚くない一冊の本でこれだけのことが実現できたのは
著者のセンスや基礎力がしっかりしているから出来たことだと
思う。初著にしてこの力量は著者のブログの筆致を読めば
納得が行く。
著者は渡米してからのほぼ5年、日々ブログを通して
メッセージ発信という刀を研いで来たのだろう。


そして後者、現代の繁栄の原動力となった論理・計算・議論
などの左脳的素養の限界を指摘し、それを補完するものとし
て、それプラス以下の要素が必須であることを指摘している。

1.「機能」より「デザイン」
2.「議論」より「物語」
3.「個別」よりも「全体の調和(シンフォニー)」
4.「論理」ではなく「共感」
5.「まじめ」だけでなく「遊び心」
6.「モノ」よりも「生きがい」


これらは管理人の理解ではシリアスゲームを考える上で
重要な要素を全て網羅しているし、「遊び心」の項で著者は
シリアスゲームの断片(America's Armyなど)を紹介している!
どうやらシリアスゲームの米国における盛り上がりについては
知らないようで、巻末にメルアドがあったので早速
著者にメールしておいた(余計なお世話かしらん?)。

⇒5月6日追記:
著者ご本人から返事をもらいました。
日本のシリアスゲームの活動(SGJ)が特に興味を
惹いたようです。
こういうメールで心がけていることは2点

・著者に対する敬意とお礼(学びを与えてくれたことに対する
ポジティブなフィードバック)
・著者の世界観、現在の仕事、調査などに有用であろう
情報のシェア、提供。

これはUSCでお世話になっている教授陣に対する時も
同様です。特に自分の場合は学生じゃないので、
こういう配慮がないと長続きしないように思います。
新聞記者さんや研究者をはじめ、
著者本人が気軽に返事をくれる、ということ
経験上、日本よりもよくある感じですね(追記終わり)。


というわけでMBAでもやった、上記の6要素について整理して
好著「シリアスゲーム」の意味を再確認しておこう。

・「デザイン」:著者がインストラクショナル・デザイン
という専門分野を学ぶ院生ということもあるが、この本に
通底しているのは基礎から実践そして将来へ至るトータルな
デザインの感性である。

・「物語」:この本はシリアスゲームの入門書であると
同時に、スタート時からシリアスゲーム推進団体
「シリアスゲーム・イニシアチブ」の活動に参加してきた
著者ならではの「物語」になっている。ゲームはそもそも
ストーリー(「物語」)とキャラクターの相互作用によって
その魅力を体現するものであり、内包している。

・「全体の調和」:前述したように、この本は単なる
シリアスゲーム礼賛本ではない。教育工学という基礎理論の
しっかりした専門知識をもった著者が、時に批判的に時に
ギークにバランスよく最新の知識と考察を配置した
「シンフォニー」になっている。読者はそのバランスのよさを
理解できるはずだ。

・「共感」:著者の社会人経験から得られた、日本の教育現場
や研究・学習の現場への視座が随所に出て来る。これは
「米国留学」や「シリアスゲーム」という経験を通して
著者が獲得した共感のセンスの体現なのかもしれない。
ヘルスコミュニケーションでも同様だが、現状を変えるには
まず対象者やその他の現状のプレイヤーへの理解と共感が
必須である。

・「遊び心」:著者は第1章で「『学び』と『遊び』に関する
誤解」と題して遊びについても考察している。その中で彼は
あるゲームデザイナーの「遊びは学習の根源的な方法である」
という言葉を紹介している。ハイコンセプトとシリアスゲーム
がクロスした瞬間である。

・「生きがい」:著者は以前、東京大学の中原先生との
やりとり
で「『学習』バカ」という表現でお互いの気質を
表現している。管理人の理解では、
「バカになれるものがある人=生きがいのある人」
だと思っているので、シリアスゲームは著者のライフワーク
を形成するものの一つだということが著書を通しても
伝わってくる。また、ゲームを通して社会とつながる、
という生きがいを見出す人も(オンラインゲームという狭義
の意味に留まらず)新たに増えることだろう。


まとめに代えて:
大げさなことを言うと、インターネットはバーチャルな世界
の中でゲームというツール(インターフェイス)を通して
世界とつながるために生まれたのかもしれない。そして
それは次代に求められていることの一部を確実に成すものだ。

セカンドライフやこの著作に含まれる事例を見ていくと
そんな気すらしてくる。

ゲームや新しいツールを使って物事を「解決」したい人も、
「解説」したい人もどちらの用にも足る2冊であろうと
思う。これは管理人にとってヘルスコミュニケーションを
考える上でも非常に示唆に富んでいた。

次代が求めるものにいち早く気付き、見つめている二人からの
メッセージを、読者の皆さんはどう受け止めるだろうか。
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東京都世田谷区在住のじょに~です。長年慣れ親しんだ杉並区を離れ、先月隣の区に引っ越しました(ついでにハンドルネームも会社で頂いたコードネーム?に改名^^;)。興味があるのはヘルスケア領域のビジネス、ヘルスコミュニケーション(特にメディア経由)、シリアスゲームの医療健康分野における活用、医療ドラマ、医療者患者関係、医師支援、ワークライフバランス、翻訳、子育て、映画など。数年前南カリフォルニア大学(USC)でヘルスコミュニケーションについて学びました。帰国後は企業で医療分野のビジネスに取り組んでいます。通信制MBAでMBA取得。もともと看護師ですが博士号(医学)は社会医学領域で取得。シリアスゲームによるヘルスコミュニケーションにも興味を持っています。
引越し先にも慣れ、世田谷の畑の多さに驚きつつ、近所や公園を二人の息子達と散歩しつつ考えたことや日々学んだことなど書き続けていきたいと思います。

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