ヘルス・コミュニケーション日記
もとヒヨっ子研究者の36歳新人会社員が、ヘルスケア領域のビジネスやコミュニケーション、子育て日記、趣味等思いつきで綴ります。
予防接種とヘルスコミュニケーション(その5)
本日は、「ではどうすればいいのか?」について考えた
ことを整理して、最終回とします(やっとか)。

本題に入る前にもう一人のK先生(ここでコメントを紹介した
方の小児科の先生です)から頂いた情報をご紹介。
小児科学会が親御さん向けにこういうサイトを作って
公開しています。
おかあさんのための救急&予防サイト「こどもの救急」
20060203221957.jpg

K先生、情報ありがとうございます。

小児科の先生方の努力が伝わってきますね。
非常にわかりやすく簡潔で症状から「どうすべきか」が
わかるようになっているので便利です。
お子さんを持つ親御さん、是非ご活用ください。
------------------------------------------------
さて、本題と少し関連することなので、
連載を始めてから情報収集の過程で知ったことを
少しクリップします。

・日本外来小児科学会にはアドボカシー委員会があり、
シンポジウムなど活動されているようです。

⇒以下、2月5日追記:
「予防接種を考えるフォーラム」というサイトがあります。
tanuki先生とmasaさんという2人の現役小児科医が
異なる立場で風疹ワクチンについて議論して
います。
非常に参考になる部分があるように思いますので
紹介して於きます。
この辺から読み始めるとちょうど下記のような要素が
語られていますね。
-----------------追記終わり

米国疾病管理予防センター予防接種に関するサイト
大変情報量が豊富で、専門家だけでなく一般市民向けの
サイトとしても活用できるのですが、興味深い日本の例が
「反面教師」的に紹介されていました。
Japan reduced pertussis vaccinations, and an epidemic occurred.
原文はこのサイトで読んでいただくことにして簡単に概略を
訳します。

1974年に80%もの接種率を誇り、百日咳の発生頻度を
低く抑えることに成功した日本で、「百日咳の予防接種は
有害だ」と噂が広まった。1976年には接種率が10%と
極端に落ち込み、その結果、1979年に極端に発生頻度が
上がり13000人が百日咳にかかり、41人が死亡した。


う〜ん、こんなことが今後の日本でも起こらないと良いの
ですが・・・(親の側に接種の意思決定権が移行した
今の日本では十分リスクのあることだと危惧します)
この記事で人々が予防接種を受けなかった原因かのように
書かれている”噂rumors”の蔓延に、メディアがなんらかの
形で介在していることは推測可能です。

この辺の因果や関係について情報を集めて考察するだけでも、
立派なhistorical paperとして学術研究に
なりそうですね。小児科領域のメディアが関連した
ヘルスコミュニケーション研究です。
小児科業界では有名な話だと思いますが、
「噂」の部分について学術的な考察は成されているんでしょうか?

日本語の先行研究を調べる術がここではないのですが、
(日本語の学術文献をインターネットで網羅的に
無料で検索・ダウンロードするサービスがありません
医学中央雑誌は日本の大学に籍のない自分には仕えないし
使えても本文が手に入りません)
ご存知の方いらしたらご教示ください。

メディアの功罪はもっと詳細に検討され、蓄積される
べきです。米国は驚くほどそれを実行し、学術論文が
積もっています。その上で、メディアとの協同の可能性を
図るべきと思います。
(予防接種とホメオパシーの関係については米・英・加・豪
などの英語圏で英語論文が豊富に出ているので整理できたら
後日報告します)

さて、やっと本題ですがこの連載の最初で少し提示した
解決案と、親の心理仮説
1.「自然志向」とホメオパシーの論理
2.裏切られ感
3.EBM科学の限界、科学の限界
に沿って考えます。

----------------------------------------------------
・ホメオパシーなどの情報の整理
まずはホメオパシーに代表される代替医療の
「予防接種不要論」の実態を理解する必要があります。
どういう言語を用い、論理構造と説得術を持って
情報提供が成されているのか。
当事者の協力を得て、情報を詳細に引き出し整理します。
⇒ただ敵対しているだけではだめで、対話から解決先を
模索することが重要です。ここでも団体対団体ではなく、
(小児科学会VS日本ホメオパシー協会とか)、
個人のつながりが重要です。対話できる資質と能力を
備えた人が双方に居れば良いのですが・・・

・親の心理の解明
そして、そのどの部分に親が最も共感し信頼しているのかを
解明します。
⇒英語圏ではFocus Group Interviewなどを用いた研究が
このトピックに関して成され、学術論文が既に複数出ています
(ご興味ある方はご連絡ください。PDFお送りします)。

・解決方法の模索
どういう機会で情報提供するのが適切かformative researchと
プレテストを用いて検討します(こちら参照

・介入方法の構築と実施
メディア・アドボカシーと連動して専用のウェブを構築し、
一般の人がわかりやすいように、FAQや
医師・親・ホメオパシーなどの代表者、といった
登場人物が対話する(けんかではなく)、
対話式(シナリオ形式)の記事を載せます。

⇒これに関してはモデルがあります。
BMJに連載された質的研究手法に関する特集記事
「ブラックボックスを開く:社会学者と主任研究者の対話」
です。本になっており、翻訳されています。

これを予防接種に関して、より一般向けにやるのです。
脚本家の助けがいるかもしれません。
管理人で良ければお手伝いします(^-^*)

一般の人に医師側の論理・代替医療側の論理・親側の論理
を適切にわかりやすく提示し、読者の当事者意識に
アピールすることが重要です。また、コンテンツは常に
ビジュアルで明快でとっつきやすいものでなければ
なりません。
(ただでさえ忙しい母親はややこしい文書を嫌います)

「親を説得する上でのEBM・科学の限界」とも関連しますが、
「根拠に基づいた」ナラティブ(語り・物語・ことば)の
構築が重要です。
ドラマの原理やシナリオ仕立てのコンテンツの力を活用して
数字と理屈だけではない、感情の面からのアプローチを
こちらも活用するのです。

米国のヘルスコミュニケーション研究で一般的に使われている
行動科学の諸理論に沿ったメッセージ構築のノウハウ
(theory-based message)と、
近年日本でも注目されているナラティブ研究の成果や体験談、
子育て中のママさんが書いたブログの記事などは
大いに活用すべきと思います。
(ブログの持つナラティブ研究的な価値については
後日エントリ組みたいと思っています)

(代替医療や予防接種批判ウェブサイトが「感情」ベースな
論理で予防接種不要論を唱えていることが、英語圏の
学術論文ではすでに指摘されていますが、
こちらも、もっと上手で根拠と倫理と正当性を持って
やりかえすのです。これも興味ある方はメールください。
PDFお送りします)

予算が確保できるなら上記と連動したキャンペーンを展開
します。

インフォームド・コンセントのあり方の検討
これは大いに小児科医の声を反映させなければならない
ことですが、「裏切られ感」の大部分は
医師−患者(親)関係から生じていると推測します。
どのような情報提供・説得の仕方が妥当なのか、
医師にとって継続可能な現実的なもので、
脅かしすぎず、かつ少々の副反応に負けない親の信頼を
構築する、「納得の予防接種」を実現するためには?

⇒前述した取り組みの成果を反映させた形で再検討する
ことは意味のあることだと思います。
わかりやすい10分くらいのビデオ・漫画仕立ての
リーフレットなどを作るとか、医師の負担を軽くする方法と
抱き合わせで進める必要があるでしょう(お医者さんに
嫌がられたら進みませんので)。

・ヘルスコミュニケーションの視点からの研究
上記の活動と並行して
予防接種(小児科医)・代替医療・メディア・親、という
登場人物が織り成す現象についての学術的な検討を質的・
量的双方のアプローチを用いて行います。
上記の百日咳の例など、同じ過ちを繰り返さないための
研究すべきトピックは豊富にあると思うので。

誤解や不適切なAgenda Settingに基づいたメディア誘導
⇒予防接種不信への世論の傾倒
⇒政策の改悪または一般市民の極端な反応
⇒予防できた疾患(Vaccine-Preventable Disease)による
被害者の発生(寝たきり・死亡・その他重篤な後遺症)

という連鎖を断ち切るためには、臨床家が頑張るだけ
ではなく、しっかりとした根拠を作り、どうすればそれが
再び起こらずに済むのかを真剣に考えることが重要と考えます。

・科学コミュニケーション教育の普及
これはこちら参照
近年日本で複数の大学でカリキュラムがスタートして
います。もう数年待てば、人材が豊富になり学校教育にも
伝播していくでしょう。医学の不完全性、科学の不完全性
について観念的ではなく、実用的に理解し活用する姿勢を
醸成する必要があります。「賢い市民」を作るのです。
勿論これは医学分野だけではできないことですが、
医学分野から科学コミュニケーション分野への提言や
協力は出来るはずです(影響力の大きい「偉い先生方」
をどう動かすか、という戦略も重要でしょう)。

とにかく全体あってのメディア戦略、全体あっての
ヘルスコミュニケーション戦略なので、問題解決のための
グランドデザインを煮詰めつつ動き出す、というのが
現実的な姿なのかなと現時点では思います。
---------------------------------------------------

さて、読んで頂いた方もお疲れのことと思います。
未熟で散漫な議論にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ご協力いただいた小児科医の両K先生、忙しいところ
本当にありがとうございました。

また、一母親・非医療者の視点から率直な批判(つっこみ?)
と情報をくれた妻にもこの場を借りて感謝します。ども。

このシリーズ、とりあえず今日で一端終了とします。
(読まされた方もほっとしてたりして)

後日ホメオパシー、Cruzの講義内容レポート、
科学コミュニケーション、メディアアドボカシーなどの
トピックとして再登場する可能性はありますが・・・

ご興味ある方はリクエスト願います。
ああ疲れた、でも楽しかった。大変勉強になりました。
【2006/02/03 23:21】 | お仕事・研究・学び | トラックバック(0) | コメント(2) |
<<ERシーズンXIIあらすじ紹介"Body & Soul" | ホーム | 予防接種とヘルスコミュニケーション(その4)>>
コメント
子供を持つ親にとってとても役に立つサイトですね。ありがとう。ホンとに子供は週末、金曜日の夜中とかに具合が悪くなるんだよね。 このリンク大切に保管しておきます。
【2006/02/05 00:54】 URL | 技術屋おやじ #-[ 編集]
技術屋おやじさん、いつもコメントありがとうございます。
先日はお騒がせしました。

議論のつきないトピックで、この連載が
問題点や双方(予防接種受けるべき・受けないべき)
の主張・根拠を全てを網羅しているわけでは
勿論ないのですが、自分の勉強を兼ねて
トライしました。

同様のことで悩んでいる親御さんたちが、
お子さんの本当の利益について考えたり
意思決定する際の材料の一つになれば
いいなと思っています。

というわけで詳しい方の力をお借りしながら、
今後もかなり続けることになるかと思います。

ご疑問やご批判、ツッコミも歓迎です。
今後ともよろしくお願いします。
【2006/02/05 03:23】 URL | taka #-[ 編集]
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東京都杉並区在住のtakaです。興味があるのはヘルスコミュニケーション(特にメディア経由)、シリアスゲーム、ソーシャルマーケティング、メディアキャンペーン、医療ドラマ、医療者患者関係、医師支援、ワークライフバランス、翻訳業務、父親の育児、映画など。南カリフォルニア大学(USC)でヘルスコミュニケーションについて学びました。帰国後は企業で医療分野のビジネスに取り組んでいます。通信制MBAでMBA取得。シリアスゲームによるヘルスコミュニケーションにも興味を持っています。
帰国後は、神田川と公園に囲まれた土地に住んでいます。緑が多く大変気に入っています。神田川遊歩道を息子達と散歩しつつ考えたことや日々学んだことなど書き続けていきたいと思います。

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